3.11を被災した税理士が伝える中小企業のためのBCP対策

中小企業のためのBCP

私が宮城県の税理士事務所に勤務していたとき、関与していた会社の3割が東日本大震災で廃業に追い込まれました。特に取引先が地元ばかりの地域密着型企業は事業を継続することが困難となり、多くが廃業を余儀なくされたのです。

では廃業してしまった会社は何をすれば免れたのか。継続できた会社にはどのような共通点があったのか?

実際に被災して多くの廃業、そして復興を見てきた元税理士としての視点で、中小企業が行うべきBCP(事業継続計画)対策についてまとめていきます。

※私が東日本大震災を被災して感じた中小企業が生き残るためのノウハウを書いているので、BCP対策より防災対策に近い内容になっています。政府が推奨しているBCP対策と違う点もありますがご了承ください。

 

BCP対策よりも大切な2つのこと

どれだけ対策をしても廃業は免れなかっただろう・・・そう思ってしまうほど東日本大震災の津波は全てを飲みこみました。そんな津波にも負けなかった会社には絶対と言っていいほど次の2つの共通点がありました。

①  復興への強い意志(団結力)

②  助け合い

どんなBCP対策よりも大切な事なので、私の実体験を交えて説明します。

復興への強い意志(団結力)

私が担当していた水産加工会社の奇跡とも思える復興の話をします。

その水産加工会社は津波の被害で工場が全損、たとえ工場を復旧しても原材料の不足が確実視されており、事業の継続はかなり難しい状況でした。

しかし社長は「より良い新商品を作るチャンスだ」そう信じ、すぐに新商品のための原材料、新工場を探し始めたのです。特に私が感激したのが「給料は払い続けるので自分の身の回りのことを優先してください。そしてまた全員で良い商品を作りましょう」と震災後に社長が社員全員にメールを送っていたことです。

自分も被災してこの先どうなるか分からないなか、このようなメールを送れる社長が一体どれだけいるのでしょうか。気持ちが従業員にも伝わったのだと思います。被災後にも関わらず従業員から笑顔が溢れ、前向きに仕事をしている姿を私は今でも鮮明に覚えています。

結果的にこの水産加工会社は、保険金や補助金、そして震災借入制度を使って新工場を建設。被災からたったの4年で被災前の売上を超える成長をみせました。


【ポイント】

社長の会社と従業員を絶対に守るという強い意志、そして前を向く姿勢が従業員の強い団結力を生み、災害にも負けない強い会社を作りました。被災者はみんな心が弱っています不安です。社長が不安な表情を浮かべると従業員はさらに不安を感じ、負のスパイラルに陥ってしまうので、緊急時こそ『会社』『従業員』を絶対に守るという強い意志を持ってください。お願いします。

助け合い

中小企業が自社で行えるBCP対策には限界があります。未曾有の大災害の被害を受けたとき、企業が生き残るために必要不可欠になってえくるのが『助け合い』です。

東日本大震災当時、限られた資源を分け合い、助け合う被災者の姿が連日報道されていたのですが、企業間でも様々な助け合いが行われていました。そんな企業間の助け合いのなかでも特に重要だと感じたものが次の2つです。

① 旧知の仲

② 広い人脈


① 旧知の仲

「あいつの会社が困っているなら、自分が大損してでも助けてやる」そんな旧知の仲での助け合いが何度か見受けられました。win-winの関係であれば誰だって助けますが、自分が大損してでも助けたいと思うのは、長年築き上げてきた信頼性あってこそだと思います。利益追求するのではなく、愛される会社作りが企業存続の鍵なのかもしれません。

② 広い人脈

困難にぶち当たったとき、その解決策を知りたくてもインターネット上には答えはありません。そんなときに頼って欲しいのが、税理士、保険外交員、銀行員、商工会、青年会etc.といった様々な業種と接する人たちです。自分に該当する助成金が知りたい、水産原料の輸入業者を紹介して欲しい、会社を売りたい。これらは実際に私が受けた相談で、それに適した事業者を紹介させていただきました。自分で広い人脈を作るのは大変ですが、広い人脈を持った人と仲良くすることは比較的簡単です。気軽に相談できる関係性を積極的に作っておきましょう。

中小企業が行うべき4つのBCP対策

緊急時の被害を最小限に抑え、素早く事業を再開するために中小企業が行うべきBCP対策を4つの区分で紹介します。

①  人

②  物

③  情報

④  金

事業を最短で再開することも大切ですが『従業員の心』を意識した対策を行ってください。

震災後にメンタルをやられて依願退職をした人が大勢います。私も震災後の人手不足のなか顧問先の対応に追われ月200時間を超える残業と、家庭の心配で心の病になり退職した一人なので辛さが分かります。

● 防災

● 連絡手段の確保

● 企業備蓄

● 代替要員

● 助成金等 ※重要

● 失業手当


【防災】

被害を最小限にするための防災は必須ですが、ものすごい情報量になるため、地震防災の最重要事項のみ書きます。

  • 棚、ロッカー、複合機の固定
  • 出入口付近に転倒して避難経路を塞ぐ可能性のあるものを置かない
  • 重要な業務中だとしても、絶対に避難を優先する

【連絡手段】

緊急時ほど情報の共有が一番大切になります。しかし大災害が発生したとき電話は繋がりません。そこで、私がおすすめするのはLINEのビジネス版であるLINE WORKSです。一斉に情報発信ができ、既読の確認も可能で、何よりみんなが使い慣れているアプリです。このLINE WORKSでなくてもいいので、必ず電話以外の情報ツールをひとつは作ってください。

【企業備蓄】

東日本大震災では水や食料がすぐには行き届きませんでした。企業に備蓄することで従業員やその家族、近隣の被災者を救えるかもしれません。

実際に自宅を失って会社で数日間生活をした人もいます。言い方は悪いですが、緊急時に会社から受けた恩は、ボーナスを何十万円と貰うより何倍も有り難く感じるものです。

もし備蓄品を購入しても、使う機会が無かった場合は社員に配ってください。美味しいのできっと喜んでもらえます。

【代替要員】

この人にしかできないという仕事は企業にとってマイナスでしかありません。突然何が起こっても良いように代替要員の確保・育成を行いましょう。もし代替要員の確保が難しい場合は、見ればある程度分かるように引継ぎ情報を残すような仕組みを作りましょう。

  • 社長の代わりに指示を出せる人物
  • その社員にしかできない特殊な仕事
  • その社員しかもっていない情報や人脈

【助成金等】※重要

中小企業を守るための制度は多く存在します。しかし存在を知らなくては適用できません。
解雇するまえに自社に適用できる助成金はないか確認しましょう。

雇用調整助成金・・事業活動縮小により休業を余儀なくされた社員の給与を助成
被災者雇用開発助成金・・被災者を雇い入れた場合の助成金
※助成金は地域や年度によって違うので、その都度調べる必要があります。

【失業手当】

東日本大震災のときは、再雇用を約束したうえで解雇する会社が多く見受けられましたが、この方法をとると多くの方が他へ転職してしまいます。どうなるか分からないまま再雇用を待つ社員の気持ちを考えて下さい。普通は他へ転職します。やむを得ないとは思いますが、解雇する場合は帰ってこない覚悟で解雇しましょう。

建物、器具備品、機械装置、仕入れ、など事業を継続する上で必要不可欠なものが無くなったとき。それを再調達する方法や代替案をまとめておきましょう。もちろん一番重要なのは破損しないことなので、それを守る防災は怠らないようにしてください。またリスクを分散する方法として同業他社と提携を結んでおく方法も有効となります。

情報

東日本大震災では、書類、パソコンの中、USBに入っている情報の多くは失われました。

自社で全ての情報を管理するのは大変危険です。『Dropbox』や『Google one』といったストレージサービスを利用してデータ紛失のリスクに備えましょう。

Google oneは、月額250円で100Gという低価格のプランからあるので、導入していない方は試してみてください。※2019年4月12日時点で、15Gまでなら無料で使用できます。

東日本大震災による倒産は直接被災していない間接被害型のものが全体の9割を占めます。
企業は様々なリスクを抱えているので、自分には関係がないと思うことなく何種類もの資金調達方法を備えておきましょう。

【預金残高】
借入をしてでも月商2~3ヵ月分の預金残高を維持することをお勧めします。
月商1ヵ月分に満たない場合、資金調達前に資金ショートする恐れがあり、資金が尽きる不安から正しい経営判断ができなくなります。
緊急時に借入をスムーズに進めるためにも、地銀や信用金庫といった地域密着型の営業をする金融機関とは少額でも良いので借入をしておくと良いかもしれません。リーマンショックで黒字倒産した会社には無借金経営の会社も多く存在しました。

【倒産防止共済】
掛金が損金(経費)になることから節税として使うことの多い倒産防止共済ですが、当初の目的は取引先の倒産による連鎖倒産を防ぐことです。取引先の売掛金回収が難しい場合は掛金の10倍まで借入ができますし、解約することで掛金を払い戻すこともできます。(40カ月以内の解約は元本割れあり)

【保険】
東日本大震災では保険によって多くの会社が救われました。損害保険は偶然発生するリスクを補償するものなので損することが多いのも確かです、しかし緊急時に一番早く資金を得ることができるのは保険です。(仮払い制度によって迅速な支給が可能な商品が多くあります)会社を守るための必要経費だと割り切って自社に適した保険に加入しましょう。

【社長の個人資産】
社長の個人資産を会社に移しましょう。

【借入、助成金】
大規模な災害発生時は企業を守るための借入、助成金制度が作られます。
東日本大震災では日本政策金融公庫がすぐに特別窓口を作り、多くの被災者の相談に乗ってくれました。しかしこの借入、助成金制度などは大災害時の特例なので期待してはいけません。