東日本大震災で経験した相続税申告と保険の話【注意点など】

2011年3月11日に発生した東日本大震災
宮城県の税理士事務所に勤務していた私は、多くの被災者の相続税相談、そして申告を行ってきました。

その中には、どうしてこうなってしまったんだ・・
と嘆いても、嘆ききれないほど悲しい思いをした人もいれば、

逆に、これは助かった!
と、少しだけ明るくなれた人もいました。

その大きな差は一体何なのか?
私が実際に相続相談を受けて気付いたこと、そして誰でも出来る備えをまとめています。

大きな災害に巻き込まれたとき、残された人が悲しい思いをしないためにも確認してください。

※分かりやすく説明するため、あえて税務用語は使っていません。

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大災害は絶対にやってくる

大災害で発生してしまった相続で一番怖いことは“備えていない”ことです。

この“備え”の意味は、節税のための備えではありません。

遺族が困らないための、最低限の“備え”です。

あなたは配偶者、両親がどれだけ相続財産を持っているか知っていますか?
(そもそもあなた自身の財産を知っていますか?)
災害は今この瞬間、全ての書類を、物を、家を破壊してしまうのです。

借金の方が資産より多ければ相続を放棄することだってできます。
しかし財産の把握ができなければ、その判断すらできません。
※原則として相続があったことを知った時から3カ月以内に判断するのですが、東日本大震災被災者は特例として、2011年11月30日まで延長されました。それでも判断出来ない理由がある場合は同日までに家庭裁判所に申立することで伸長可能

当時、私のお客さん(被災して亡くなった社長)の奥様(60代)から泣きながら、悔しそうに言われました。

「家も工場も全部流された、父さん(旦那)がいくら資産があって、いくら借金があるかも何も分からん。どうせ被災した土地だって二束三文、もう全部やめたい。」

自宅を失っただけの私でも、不安で寝れない日々が続きました。

でもこの被災者は

配偶者を亡くし、家と工場を失い、預金、借金も一切分からない状態、
これから自分はどこで、どうやって生活していくのか、
生命保険金、地震保険金、弔慰金はいくら入るのかも分からなければ、
どこまで相続税の対象になるのかも分からなかったのです。

不安で、悲しくて、生きるのに必死で、相続税のことなんて考える暇もありません。

ただ、この奥様は不幸中の幸い、私たちの税理士事務所にある程度お亡くなりになった旦那様の財産データが残っていたことで、素早く正しい相続の判断、そして申告を行うことが出来ました。

私は本当に思いました。

税理士事務所に財産データがあり、相談できる人なんて本当に僅か。
多くの人は一人で悩み、そして悩むことに疲れて、間違えた答えを出してしまう。

そうならないためにも、残された人を苦しめないためにも、備えておきましょう。

遺言書

もし遺言書を残しても災害で紛失すれば意味がありません。

公証役場で公正証書遺言として残していれば、遺言書を紛失しても公証役場で確認出来ます。
財産がある方は、争いを避けるためにも遺言書を残してください。

同時死亡

相続関係図

上記の図のように、災害で義父と夫を同時に亡くした場合、義父の遺産に対してAさんは何の権利もありません。

もしも夫がご存命であれば、
義父の財産は → 義母1/2 、夫1/4 、夫の兄1/4 、という法定相続割合になるのですが

夫と義父が同時に亡くなることにより
義父の財産は → 義母1/2 、夫の兄1/2 、という法定相続割合になってしまいます。

実際に多くの被害が出てしまった東日本大震災では、このような事例が見受けられました。
仮に、義父の遺言書で夫に全て相続すると書いていても、同時に亡くなってしまえば夫に相続できないため、Aさんが遺産を受け取ることはできません。

例えば、事業を継いで一緒に生活をしていた夫婦より、東京に出て行った夫の兄に財産が渡ってしまうことだってあり得ます。

これを少しでも防ぐには生命保険を使った対策が有効です。
被保険者を義父とし、受取人を夫とする生命保険に入っていれば、必然的に夫の相続人であるAさん(妻)に生命保険金が渡ります。

生命保険は相続税法上、法定相続人一人あたり500万円の非課税枠があるので上手く活用しましょう。

預金

相続放棄の判断をする上でも、相続税申告を行う上でも正確な預金残高は絶対に必要です。
しかし、どの金融機関にどれだけ預金残高があるか一切分かりません。

そのときは通常、取引があったと思われる金融機関に各自照会をかけていく必要があります。

しかし東日本大震災時は限定的に、どの金融機関に預貯金があったか一括して調査することが出来ました。(全国銀行協会の預金口座照会制度)

しかしその制度が作られたのは東日本大震災のときだけ。
熊本地震や西日本豪雨では適用されませんでした。

つまり、ある程度どの金融機関と取引があるか知っておく必要があります。
財産の内容まで教えなくても、どの銀行と取引があるか周知しておいても良いかもしれません。

借金

借金も預金と同じく相続放棄、相続税申告をする上で最重要事項になります。
銀行、消費者金融、クレジットカードどこにどれだけ借金があるか分からない方。
信用情報機関に情報開示請求するのが一番正確です。

  • JICC 株式会社日本情報機構 (消費者金融系)
  • CIC 株式会社シー・アイ・シー (クレジット、信販会社系)
  • KSC 全国銀行個人信用情報センター (銀行系)

3つの機関ごとに役割が違うので、全てから情報開示請求しましょう。
手数料は各約1,000円です。

不明土地

東日本大震災で多くの所有者不明土地があり、復興の弊害となりました。

所有者不明になる主な原因は、相続した土地を登記せずそのままにしたことです。
めんどくさくても一度しっかりと登記をして所有をはっきりとさせましょう。

ちなみに平成28年度の地籍調査で、土地のうち約2割は不動産登記簿上の所有者が不明という結果がでています。

リスクの分散

一つの資産に集中させてしまった方の多くが損をしています。

不動産投資、仮想通貨、FX、株、etc.

一度成功した経験があるから一つの投資に集中させてしまう気持ちは分かるのですが、集中させすぎるといつか痛い目を見ます。

想像を超える災害に襲われたときに損しないためにも、様々な形で資産を所有してください。

今ある資産は南海トラフ地震が来ても、大暴落しないか?
一度そのような視点で考えてみることも大切です。

本当に必要な保険の選びかた

私は生命保険金があって救われた被災者を何組も見てきました。(私も地震保険で助かりました)
逆に、適した保険設計ができていなかった故に救われなかった被災者だって多く見てきました。

その経験から色々と感じたことがあるので紹介します。
※完全に私の個人的な考えです。

保険の本質を考える

保険の本質は保障にあります。
“保障”“貯蓄”を混合して考えてはダメです。

だから貯蓄型の保険は、基本的におすすめしません。

理由はシンプルに2つ。
他と比べ割高途中解約すると損の2点です。

実際に東日本大震災を被災したことで生活が苦しくなり、元本割れする貯蓄型の保険を解約した人だっていました。
保障と貯蓄は本来、相性が悪いものです。

保険の本質を考えて、何かあった時の保障を掛け捨てで入ればいいと思います。
貯蓄型と違ってかなり低価格で押さえることができますし、手軽にプラン変更可能です。

万能保険は絶対にない!

貯蓄もできて、ガンも入院も保障する。
そんな万能で最強の保険なんて絶対ありません。

もしも、そんな商品があればその商品を発売している保険会社以外、全て潰れます!

さらに、この商品人気ですよという営業トークも疑いましょう。
他の人とあなたは別人なのだから。
自分は何年後に何をして、生活がどうなるとイメージして、必要な保障から保険を選びましょう。

保険外交員を疑え!

保険外交員は売った保険のインセンティブが入ります。
そして、そのインセンティブは保険の商品によって全くインセンティブ率が違うのです。

保険外交員によっては、自分に入るインセンティブが高い商品ばかり売る人だっています。

複数の保険会社と契約している街の保険屋さんのようなお店でも、ひとつで決めるのではなく、2店舗以上回って比較することをおすすめします。

でも、本当に一番良いのは保険の本を読んで、自分に適した保険を勉強することです。

地震保険はいる?

知っているかもしれませんが、少しだけ地震保険の説明をさせてください。

そもそも地震保険は、火災保険とセットでしか入ることができません。
そして火災保険は、家の価値以上に掛けることが出来ません。
さらに地震保険は、その火災保険の50%までしか掛けることが出来ません。

つまり、地震で家が破壊された場合、最大でも50%の補償しかないのです。

でも私は地震保険に加入することをおすすめします。
理由はとてもシンプルで、日本は超地震大国で、私が本当に困っている人を多く見てきたから。

ちなみに地震保険は、損保会社によって料金、サービスの差はありません。
地震保険は損保会社が窓口になっているだけで、実質政府が管理しており、損保会社が利益を得られない仕組みになっています。

多分大丈夫はだめ!

最後に私が本当に伝えたいことを書きます。

不幸は突然やってきます。

本当に、突然。

だから備えてください、最大の備えは命を守る防災。

命を守ったあとは本当に必要なものは“保険”です。